『早春の少年―伊集院大介の誕生』栗本薫

今年の1月に、伊集院シリーズの『青の時代』の感想を書きました(http://d.hatena.ne.jp/sis_kasuri/20090112#p2)。そこで「私はもう栗本薫の伊集院ものは読まないかもしれない。」なーんて書いておきながら。実はまだ積読があった。そしてその間に、栗本薫が亡くなった。
1月の時点では、氏が亡くなるなんて想像もしてなかった。亡くなったから読むというのは失礼だけど、改めて伊集院ものを読んでみて、稀有な作家が、亡くなってしまったんだな、と思った。
私は栗本薫のさほどいい読者ではない。グインは一つも読んだことがない。あるのは、デビュー作から続くぼくらシリーズと伊集院シリーズ、そして終ラブくらい。そして、すごく好きな作家というわけでもない。けれど、氏は私のつまらない好悪とは全く別の次元に存在し、こういう言い方が許されるかわからないが書くために生まれ、書くために亡くなっていったのかもしれない、と思う。氏のような作家は、そうそう現れるものではないだろう。伊集院ものにしばしば登場する、滅多に現れない逸材(伊集院も含めて)とは、そのまま氏のことだったんじゃないかという気がする。
さて本作は伊集院が『青』より更に若い頃、中学生の頃のお話。どこにでもあるような田舎町・平野を舞台に起こる連続殺人事件に挑む伊集院とその友人のお話。友人は男子だけれど、伊集院に妙に惹かれてゆくくだりの描写は辟易させられるけれども、伊集院の初々しさはほほえましい。これが伊集院でなかったら「中二病」だ。ミステリとしてはさほどの出来ではないけれどこの物語の主眼じゃないから別にいいのか。ラストの台詞はミステリ好きの心をくすぐります。(こら!ラストだけ立ち読みしないように(笑)