『夏から夏へ』佐藤多佳子

一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ- (講談社文庫)』の作者が、現役スプリンターを取材したノンフィクション。残念ながら、取材はオリンピック直前で終わっているため、銅メダルのエピソードはないのだけれど、これを読むと彼らにとって、メダルがどんな意味を持っていたかを知ることができる。スプリンターたちは日本を代表する面々であるけれど、それぞれの個性やキャリアはかなり違っている。そういう人は元々才能があるんでしょ、と凡人の私は思ってしまうが、もちろん才能はあるのだけれど、多くのスプリンターはそこ止まりである、というエピソードには胸を打たれた。彼らは、走る才能の上に努力をし続けるという、これもそういう言い方をしてしまえば”才能”があるのだと思った。「速く走る」と一言で言うと簡単だが、それのなんと奥深いことよ。そして、これら多くのエピソードを持ちながらも実際の競技は10秒足らずで終わってしまう。その10秒のために何年も、何年も費やす男たちの物語です。