『雪沼とその周辺』堀江敏幸

架空の(だよね?)街雪沼を舞台にしたオムニバス短編集。ミステリではないので、劇的な物語があるわけでなく、明確な回答が示されるわけでもない。構成は、全編とも、まず、現在が語られ、その中の一つに焦点が合うと、それを軸にして過去のエピソードが語られる。そしてもう一度現在に戻る。最初の現在の時制で感じた印象が過去を経て戻ってきた時に変化するのが、不思議であり面白い。それぞれの話はすごく短いのだけれど、短い映画を見たような感じもする。また、それぞれの短編が微妙につながっているので、最後まで読むと「雪沼」という街にそれぞれの憧憬が浮かぶんじゃないかと思う。