『コールドゲーム (新潮文庫)』荻原浩

高3の夏が終わった高校球児が主人公で、タイトルがこれだから野球の話かと思いきや、ほとんど関係ない。大雑把に言えばもやもやしたものを色々は抱えている主人公たちが事件を通して成長する物語になるのだろうけれど、青春もの(?)にあるようなスッキリさはない。しかし、思春期がある日始まり、何かを経て、いつの間にか終わるように、劇的な、目に見える変化というものはないのだろう。ストーリーはご都合主義を感じるが、それでも読ませるのはさすが、ベストセラー作家というところか。登場人物のことを誰も好きになれず、最後までそれは、あまり変わらなかったが、感情移入を必要以上に要求されるよりはいっそ潔いかもしれない。最後には「好きじゃないけど嫌いでもない」と思った時点で作者の意図には嵌っているのだろうし。
ラストシーンで主人公の○○を奪ったままの描写がとても怖かった。もし、映像化してもこのシーンは原作の怖さを超えられないだろう。解説その他で「ミステリー」とあるが、そうではないと思う。それと、作品の評価は別物だけれどサプライズエンディングを期待すると失望するかもしれない。石田衣良による解説によると、この作者はフトコロが広いらしいので、他の作品も読んでみたくなった。とりあえず『明日の記憶』かな…。