1月の読了本

『風が強く吹いている』三浦 しをん→【bk1】
『薄闇シルエット』角田光代【bk1】
『リアルワールド (集英社文庫)』桐野 夏生→【bk1】
下妻物語 完 ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件』嶽本 野ばら→【bk1】
あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します UN POCO ESSAY SPECIAL!』菅野 彰文/立花 実枝子絵→【bk1】→感想はこちら。
『遺品 (角川ホラー文庫) 』若竹 七海→【bk1】
『一瞬の風になれ 1 イチニツイテ 』佐藤 多佳子→【bk1】
『一瞬の風になれ 2 ヨウイ』佐藤 多佳子→【bk1】
『一瞬の風になれ 3 ドン 』佐藤 多佳子→【bk1】
北村薫本格ミステリ・ライブラリー (角川文庫)』北村 薫編→【bk1】
犯人に告ぐ』雫井 脩介→【bk1】
『I love you 』伊坂 幸太郎/石田 衣良ほか→【bk1】

感想のようなもの。

『風が強く吹いている』天才的走者の走(かける)を見つけた灰二は、胸に秘めていたある野望を下宿屋竹青荘の面子に告げる。それは陸上経験のない彼らに「箱根駅伝に出よう」というものだった。その日から竹青荘の面子の、トレーニングが始まった。
細かいことだけど、駅伝の話なので文中に「走る」という言葉が頻出する。そして主人公が「走(かける)」なので読んでいてややこしかった。物語はオヤクソクな青春小説。竹青荘の面子は素直すぎるだろう!とかツッコミどころは多数あれど、そこは目をつぶって物語を楽しんだ者勝ち。駅伝のシーンは涙なしには読めなかった上にエピローグでもう一度泣かされるとは。心から楽しみました。

「あんなに潔く残酷で美しい嘘を、ほかに知らない。」

ところでこれを読んでから現実(?)の箱根駅伝を見たら、心の中で灰二や走や双子や皆が一緒に走っていました。順天堂の今井の走りを見ながら「神童はどのへんかな」みたいな。

『薄闇シルエット』下北で古着屋を営むハナは恋人のタケダくんからプロポーズされるも「なんかつまんねえの」と感じてしまう。オムニバス短編集。
冒頭を立ち読みして衝動買いしたけれど、最初のお話が一番よかった。章タイトルにもなっている「ホームメイドケーキ」のエピソードがとても強く印象に残った。

私の母親は手作り狂だった。手作り狂ならぬ手作り教の教祖のようだった。(中略)父と母と妹の誕生日には、いつも母の手作りケーキが登場する。それは決まって生クリームと苺のケーキだった。
ケーキ職人が作ったケーキをケーキ屋で食べたときの衝撃は未だに覚えている。(中略)
けれど母は、自分が作るケーキが誕生日を迎えた人を幸福にすると信じて疑わず、せっせと作る。母をかなしませないために私はそれを食べた。食べたのだが、たとえば私の成績が落ちたり小遣い前借りが続いたりした折に、手作り教の教祖にふさわしい威厳と傲慢さでもって「今度の誕生日にケーキは作ってあげませんからね」と母が宣言するとき、鼻白むようなあわれむような、苛つくような侮辱したいような、荒々しい気分になったものだった。

現状維持派のハナと変わっていく周りの人たち。ハナも変わろうと足掻くも、それは意図せぬ方向に走り出してしまう。最後にはハナも答えらしきものは出すのだけれど、読者は、自分でどうにかするしかない。変化とは、やってくるものではなく作り出さなければ生まれないものであり、そこに留まって何もしないことも、動くことも、どちらにもリスクがあり、幸福があるのだと思う。

下妻物語(完)』桃子とイチゴの二人が代官山から下妻に帰る高速バスの中で殺人事件が起こった。容疑者はイチゴが心から尊敬する亜樹美。しかし亜樹美にはアリバイがあり、次にイチゴが容疑者にされてしまう。
…と、事件はあるものの桃子とイチゴと、その周りの人たちはいつも通りです。途中で「トリックはあれ?」と気付いた人。それ正解です。悲しい結末は似合わない二人なのでこれからもずっとこのままでいて欲しい。最後はちょっとほろっとさせられてしまいました。


『リアルワールド』母親を殺した少年の逃亡に加担することになる4人の少女の物語。解説にある通り、4人の女性(この場合は少女)と犯罪という組み合わせは桐野の十八番。彼らが踏み越えてしまったものと越えなかったものは何なのか。4人が選んだ(選ばざるを得なかった)道のどれもが辛く、険しい。生きることも、死ぬことも。


『遺品』ある旅館の一室に残されているのは、今は亡き女優であり作家であった曾根繭子の遺品だった。その遺品を展示するべく雇われた学芸員の周りで不可解な出来事が頻発する。ミステリ作家の書くホラーはミステリ的仕掛けが興ざめになることもあるのだけれど、これは相乗効果。後半の展開がばたばたしているのが残念だけれど、そこでめげずに最後まで読めば怖さ倍増。そしてプロローグを読み返すと尚、怖くて切ない。最後まで読了して気付いたが、この小説、ある重要な情報が最後まで明かされない。その意味に気付いたときに再度、背筋を走るものがある。

『一瞬の風になれ』天才的サッカー選手の兄を持つ主人公、新二は中学でサッカーに見切りをつけ、高校で陸上デビューする。幼馴染みの連は将来を嘱望された短距離ランナーだったが、事情があり、陸上から離れてしまっていた。連と一緒に陸上を始めることになった新二は、顧問の三輪先生から「そのうち連と勝負できるようになる」と言われるが…。

主人公の新二は連のことが大好きで「好き」と何度も言っているのにBLにならないのはどうしてなんだろう?萌えなことを考えてしまう自分が恥ずかしくなるくらい爽やか。新二と兄健一のエピソードは、この小説の中で最もドラマチックな部分だろうけれど、そこをありきたりな話にまとめなかったところがとてもよかった。他にも、みっちゃん(先生)の学生時代のエピソードなど、どれも控えめに紹介されていて「泣かせ」に持っていかないのが本当によかった。そうなっていたらこの小説の価値は半減したと思う。
短距離走は、一瞬(10秒)で終わってしまうせいか、言葉やセンテンスが短く、リズムと歯切れがいい。読みながら、彼らと一緒に走り、同時に走っている彼らを見守っている気持ちだった。
舞台が地元なので風景を想像しながら読めたのは役得だった。こもれびの森はいいところですよ。この高校、十ン年前には音楽室から牛が見えたのになぁ。

北村薫本格ミステリ・ライブラリー』どれも面白かったけれどここはやはり「ライツヴィル殺人事件」か。これって公募型毒チョコじゃん。新井素子吾妻ひでおのツッコミとイラストがとてもよい。「あいびき」は解説対談にもありますが吉行しかできない技。「酔いどれ弁護士」は短編ながら探偵のキャラクターが本当によい。それにしてもクイーンの手紙の最後のセンテンスにはぞっとした。…さすが、の一言。

犯人に告ぐ』児童誘拐事件の捜査を担当した巻島は誘拐された少年を殺されるという失敗を犯し、閑職に飛ばされる。しかし再び連続児童誘拐殺人事件が勃発し、捜査責任者に任命される。巻島は「劇場型捜査」を展開。報道番組に出演し、犯人からの手紙を要求する。
横山秀夫を期待したのがよくなかったのか、あまり楽しめなかった。横山作品との大きな違いは登場人物の魅力だろう。横山作品は善であれ悪であれ魅力的なキャラクターが活躍するのに対し、こちらは主人公の巻島は何を考えているか分からないし、植草や上司の曾根に至ってはサイテーとしか言えない。悪いなら悪いなりに魅力がないと説得力がないと思う。

年末から年始にかけて、アンソロジー『I LOVE YOU』(祥伝社)を読んでいました。伊坂→乙一→本多→石田→中村→市川の順で順番で面白かったです。っていうか市川のは酷いし中村は意味不明だった。(中村は途中まではよかった)本多が意外によかったなぁ。石田は悪くなかったけど記憶に残ってない。 (別の場所に書いた感想を転記しました)