『ぼんくら(上) (講談社文庫)』『ぼんくら(下) (講談社文庫)』宮部みゆき

/新刊で買ったけれど長いこと放置してた(口直し読書用のため)。これは、少し変わった構成で、上巻に6編収録されているのだけれど、6編目は長編で、下巻に続き、下巻をほぼ1冊使って終わる。最後にエピローグ的な短編が1本ある、というもの。
内容的にも上巻の5編を1巻として、長編を2巻としてもいいんじゃないかと思うんだけど、商業的には上下間にした方がよかったのかな。私は最初から長編のつもりで読んでいたのでよかったけれど、時代物のオムニバス短編集(『初ものがたり』みたいな)と思って手に取った人は思わぬ長編を読まされてうんざりしなければよいけれども。
この物語は「鉄瓶長屋」で起こる色々な事件(後の長編に繋がるのでそれなりに血なまぐさい事件)が起き、解決はしたかに思われたが(最初の5編)実はそれらの事件には裏があり、と長編に繋がる。短編がスッキリと解決する(実は違うんだけど)のに比べて長編はかなりじっくり読ませる。名前だけだけど、茂七親分も出てくるので嬉しい。長編は謎解きがされるけれども、極悪な下手人がとっ捕まって大岡裁きを受ける、というような水戸黄門的な(番組混ざってる)爽快感はない。作者は結局「湊屋総右衛門」という稀代の商人を描きたかったのかもしれないとも思う。エピローグ短編の「幽霊」も別にすっきりするオチはない。
それはこの物語の「闇」の部分。「陽」の部分では井筒平四郎とその周りの人物の日々の暮らしが楽しく読める。どちらが欠けてもだめだし、どちらもこの小説の深い味わいの一つになっていると思う。この陰陽を両方書けるのが宮部みゆきのすごいところだと思うのだ。