青の時代―伊集院大介の薔薇 (講談社文庫) 栗本薫

栗本薫と言えば耽美系。と世間では思われているのかもしれないけど、そっち系は、私はあまり読んだことがない。実は栗本薫は耽美系だけでなく、ミステリもかなり多く書いている。と言うと「耽美風ミステリなんでしょ?」と思われるかもしれないが、そんなこともない。…はずだった。かつては。
そういうわけで、私は耽美でない栗本薫の伊集院大介ものが好きだったんだけど、ある頃からなんだかすっごく耽美寄りになってきてしまった。ある頃と言っても『天狼星 (講談社文庫)』の辺りだから、もう相当、経つのだけれど。それに、元々耽美的要素が皆無だった訳ではないんだけど。
青の時代―伊集院大介の薔薇 (講談社文庫)』は、伊集院大介が20代の頃の事件。一人称は当時の新人女優、花村恵麻(この名前からして、なんだかなぁ…せめて芸名にして欲しかった)。大学では、学生運動が終息の気配を見せつつある時代。花村は演劇界のカリスマ脚本・監督・演出家である阿木に見出され、阿木の率いる学生演劇「ペガサス」の看板女優となるがそのことが劇団内部に軋轢を生み、ついに事件が起きる。
栗本薫があとがきでも書いている通り、このお話はまさに「青い時代」を回顧するもの。…なのだけれど私は学生運動世代ではないのでそこでは全くノスタルジーには浸れなかった。もっとも、それだけのお話を巨匠・栗本薫が書くはずはない。ので私も私なりにノスタルジーには浸ることができた、と思う。
というのは、当たり前のことなんだけど、昔、好きだったものを、今、同じように好きであるとは限らないということ。自分も変わるし、相手も変わってしまうのだということ。
物語の最後で伊集院大介は久しぶりに大女優となった花村恵麻と再開する。けれど、伊集院大介が持っている薔薇の花束は花村恵麻へのものでは、最早ない。
私はもう栗本薫の伊集院ものは読まないかもしれない。以前は好んで読んでいたけれど、耽美傾向になって、付いて行けなくなった。若い頃は、若い頃なりの律儀さで追いかけて行こうとしたかもしれないけれど、そんなことをしなくてもいいのだとこの作品に教えられた気がする。