ここんとこの読了本

告白湊かなえ
あっという間に読めた。売れる理由もよく分かる。この作品の感想はそのままその人の人間性を測るリトマス試験紙になるんじゃないかな。こういう作品が本屋大賞1位になるのはすごい気もするけど賞としては本屋大賞くらいしかあげられないかもしれない。…と、あえて内容に踏み込まない感想を書いてるけど、私の感想は「爽快」。
百日紅の咲かない夏 (新潮文庫)三浦哲郎
幼い頃父親が死に、母親に捨てられた姉と弟が、弟が17歳になった頃、再会して、物語は始まる。それは、百日紅が咲かない寒い夏の出来事だった。それぞれに絡む人間関係や事件に悩み苦しむ二人が出した結論とは。
もちろんミステリではないんだけど、表題の百日紅をはじめ、色々な小道具が結末に向けて収束していく様は綺麗に伏線を回収したミステリを思わせてとてもいい。この作品のオマージュが『肩越しの空 天上の光 (EXノベルズ)』(菅野彰)だと思うんだけど、どうだろう。『百日紅』の文庫の装丁は司修だけど、野暮を承知で言わせて貰えば今市子のイラストでも見てみたい。
美女 (集英社文庫)連城三紀彦
短編集。正直「期待したほど…」なんだけど、これは期待値が高いせいだと思う。表題作はよかった。
造花の蜜連城三紀彦
上と同じく、正直「期待したほど…」。これは、事前のネットその他の評判を仕入れすぎたせいかも。
スペース (創元推理文庫)加納朋子
童貞放浪記小谷野敦
冒頭の1ページを読んで嫌だったら読まない方がいいと思う。作者のファンなら。
独白するユニバーサル横メルカトル平山夢明
てるてるあした加納朋子
ささらの街に家出少女の照代がやってきて、よりによって(?)ささら三婆の一人、久代さんを頼りにしてきた。そこで起こる不思議な物語。
泣いた。まさかこんな結末とは思わなかった。漫画も読んでいるせいで、キャラが生きて見えるだけ余計に。一応、主人公の照代は救われたと言えるのかもしれないけど、登場人物の全てが救われるわけじゃないんだなぁ。そこがいいのだけれども。
転生 (講談社ノベルス)篠田節子
チベットのミイラ、パンチェンラマ10世が蘇った。彼は周囲を振り回しながらチベット各地を放浪する。そして最後にはある国家計画を知ることとなり…。
場所がチベットで、少し複雑なチベット情勢も語られることから地味で読みづらい印象はある。でも、10世のキャラクターはとても面白い。三蔵法師がとんでもない人の西遊記みたいな感じか?好きにはなれないけど憎めなくて、気が付くと「もうしょうがないな」と思いつつ、彼を応援していたりする。途中に唐突に現れる老婆もいい。アニメとか、ゲームに向いているかもしれない。…とはいえ、チベット情勢の題材なので、そこは難しいかもしれない。そこに詳しい作者のこと、最後の国家計画はフィクションかもしれないが、その他のことはほぼ真実だと思っていいんじゃないかと思う。愉快痛快の後で近くて遠い国チベットのことを少し知ることができる一冊。
シャドウ (ミステリ・フロンティア)道尾秀介
よくできたパズルを見るような端正さはあるのだけれど、正直、突っ込みどころが多い…。
模倣犯〈上〉』『模倣犯〈下〉宮部みゆき
すごい。すごい作品だった。
連続猟奇殺人が起こり、それが意外な形で終結する。読者には真犯人が分かっているからこれからどうなるんだろうとやきもきしていたら、真犯人が意外な行動に出る。
積み重ねたエピソードを圧倒的なリーダビリティで読者を引き付けて、最後までページを捲る手を止めさせない力量はさすがの宮部みゆき。読み物として面白いのはもちろんだけど、読み終えて、これは、犯罪被害者や加害者の家族について描きたかったのだとわかる。そしてマスコミか。この作品が書かれてからもう10年になるけれど、この間に、ここで描かれていることに対して社会は変わっただろうか?相変わらず加害者の家族を追い詰め、被害者を晒し者にする。それを見る一般市民とマスコミの反応も10年一日変わっていない気がする。そのことの方が真犯人「ピース」より恐ろしいことだと思う。
狐火の家貴志祐介
弁護士の純子と防犯探偵(?)榎本のコンビが短編集で復活。貴志祐介というと、厚くて重い長編のイメージがあったけど短編もなかなか、というよりかなりいい。