ここんとこの読了本

積読崩し。のはずが読書欲が喚起されて図書館に行ってしまった。
桐野夏生まつり。
光源』『魂萌え !』『対論集 発火点
一冊は対談集とはいえ、桐野続けて3冊は何か来るものがある。対談集は面白く読みました。林真理子とのが一番面白かったかな(笑)。女子高のあるクラスの底辺の女子と、孤高の美人との対談みたいだった。桐野は、自覚がないかもしらんけど、話題になる動機の一つにその美貌はあると思う。そこんとこ、林真理子に突っ込んでほしかったのに。対談集は全体的にアーティスティックな内容になりがちだったんだけど、まぁそこは読み飛ばして。正直、あんまり「ブンガク」の方向には行ってほしくない…というかエンタテインメントを忘れないで欲しいという気持ちはあります。
魂…は、私がこの年齢で読んでも仕方ないのかも。要するに家族も他人ってまとめかな。光源…は、結局、完成しなかった映画が気になる。けど、それぞれの登場人物がぎりぎりのところで集まって成し遂げようとしたプロジェクトだったので、破綻したきっかけはそれとしても、別の可能性もいくらでも考えられたんじゃないかな。主演俳優も、そこまでして守ろうとしたものを後日談では捨てようとしている。読者はどうしても、完成しなかった映画が残念だけど、完成したとしてもそれがすごく「いい」ものかどうかは結局わからない。ものを作ることの業、ということなのでしょうか。
京極夏彦まつり(2冊だけど)
豆腐小僧双六道中ふりだし』『南極(人)
南極は、作者も書いている通り、ギャグを小説でやるのは難しいという結論でしょうか。装丁は面白いけど一冊の中で文字組は統一してほしいナリ。豆腐は、平易な口調で書かれた妖怪論文?
いとしきものたち三浦哲郎
青森で生まれ育った著者が、仕事場にしていた長野の山荘での日々を綴るエッセイ。各所で書いたものを集めたので同じことを書いている箇所も多いのだけれど。一通り読み通して、初出を見ると、書かれた時期に20年ほども隔たりがあったりして驚く。マンガなら確実に絵が変わっているだろうに。特に自然を礼賛するでなく、日々の暮らしを淡々と綴っているエッセイは、インパクトには乏しいけれど、なんとなく気になる文章が心のどこかに残る。写真も素敵な一冊でした。
少年探偵江戸川乱歩全集〈27〉黄金仮面江戸川乱歩
「まえがき」によると、この作品。原作は江戸川乱歩で、児童書向けにリライトしたのが武田武彦氏らしいのだが、著者表示に何も書いてないのはいいのか?
逃げ出した死体 伊集院大介と少年探偵栗本薫
伊集院シリーズの既刊も残り少なくなってきました。これは探偵を目指す少年が主人公なので伊集院は本当に最後の最後まで出てきません。この主人公の少年だけど、栗本薫得意の例の美少年……では、全然、なくて、ただの小生意気なクソガキ(失礼)。正直、読者もあまりこの子をかわいいとか、応援したいとかは思わないと思います。ただ、よく考えると本当の、現実の子供って、ドラマの子役みたいにかわいくない。かわいいとしたらそれは、その子供が、大人が考える子供を意識的にか無意識でかは分からないけど演じているからなんじゃないかと思いました。単純に言えばこの物語は少年が大人になる過程を描いていると言えるけど、こんな、手あかのついたテーマを手あかのついたように書く栗本薫では、当然、ないのです。彼は事件を経て大人になるのだから、一般的な経験とは言えないけど、彼が大人になったと思う箇所は、あまり具体的に語られることはないけれど、誰もが頷く価値観の一つかもしれない。…とはいえ、これを獲得しまいまま年齢だけ重ねている精神コドモもたくさんいるんだろうけれども。
相変わらず、ミステリとして読むと腹が立つかもしらんけど、読ませてしまう栗本薫にいつも完敗してしまいます。