5月の読了本

人間は笑う葦である (文春文庫)土屋賢二
99%の誘拐 (講談社文庫)岡嶋二人
風雲縛魔伝〈6〉出雲鬼社の巻 (コバルト文庫)桑原水菜
キス西澤保彦
陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル)伊坂幸太郎
びっくり館の殺人 (ミステリーランド)綾辻行人
最悪 (講談社文庫)奥田英朗
白昼蟲―“ハーフリース保育園”推理日誌 (講談社ノベルス)黒田研二
しゃべれども しゃべれども佐藤多佳子
灰色の巨人 (少年探偵・江戸川乱歩)江戸川乱歩
メグレ警視 (世界の名探偵コレクション10) (集英社文庫)』ジョルジュシムノン
感想は↓
『葦』GWの旅行に、軽い読み物を…と持参したが、予想に反して、軽くはなかった。
文章は軽妙で、ユーモアもある。だが、外国の喜劇を見ているような、距離のある笑い。
いかにも哲学者らしく、哲学をパロディにした部分も多いのだが、
いかんせん読者である私の教養が追いつかなかった。
解説のなんと嫌味であることよ。
『99%』よい評判は前から聞いていた。そういう場合、期待値が高まって実際に読むと
「こんなもんか」と失望することもままある。が、これは例外だった。
ストーリーは単純。ミステリとして凝ってもいない。
だが、「青の炎」に似た主人公(とその父親)の狂気が生み出す犯罪に、
月並みな言い方だがページを捲る手が止まらなかった。
トリックの主眼となる例の仕掛けは現在の技術で、実現可能らしい。
が、それはどちらでもよい気がする。技術的な薀蓄が多すぎなく、
ある意味SF的に描かれていたのもよかった。
『風雲』何年ぶりに桑原水菜を読んだろうか。このシリーズは、勧善懲悪の時代劇を見るようで好きだったのだが、主人公の少女が某○虎化してきて、読むのをやめた。
物語は佳境に向かいつつあり、以前の痛快娯楽劇的雰囲気はもう味わえないが、
某シリーズにはない軽さは、やはりいい。キャラクターも薄く(褒め言葉)
非常にマンガ的。主人公が二人いることで、どちらに感情移入するか、分かれるだろうし
読者の、「結末はこうなってほしい!」という結論を安易に出させない。
その手法はさすがだし、こういう読者の翻弄の仕方は心得ている作者である。
最後に彼女たちがどうなるのか…気になってしまったら続きを読むしかない。
『キス』西澤保彦による、森奈津子オマージュ。作品の濃厚さは本家に叶うはずもないが、
それなりに楽しめる。完全に馬鹿(褒め言葉)になりきれないところが、本家との味の差か。
まだ、印象が中途半端なので、森奈津子+αの「α」の部分が欲しいところ。
『陽気』待ってました!作者による初の続編としての続編。伊坂は続編を書かない作者と思っていたので嬉しい誤算。しかも、出版社の要求より更にいい作品を出してくるという、どこまでも読者を喜ばせようとする姿勢にこちらはただただ享受するのみ。相当、凝っているし、何度も書き直し、気に入ったフレーズが出てくるまで悩んだりもしているのだろう。けれど読者にそれは一切見えず、作者の手から魔法のように言葉が紡がれて完成された作品に見える。読み始めると止まらないが、なるべくゆっくり、味わうように読みたい。
『びっくり』暫くの間「びっくり」という言葉がトラウマになるかもしれない…。これは、ホラーです。ミステリとして読むと腹が立つのでホラーだと思って、読んでみたい人はみてください。
『最悪』初奥田。評判のいい作家だから期待していたけれど。題名通り後味が最悪。
確かに面白いし、厚さを感じさせない。主人公は3人いて、彼らがいつどこで接点を持つのか…と最後の最後まで引っ張る。その後は怒涛の展開。「色々あったけど最後はハッピー」では小説にならないのかもしれないが、私はそれを期待して読んでしまった。この結末を無理矢理ハッピーエンドと解釈することができなくもなくもなくも…(以下略)
『白昼』前作から時間を空けすぎ、設定を忘れてしまったが、特に問題はなかった。設定も展開もネガだが、暗くなりすぎないのは時々挿入されるちょっとしたくすぐりのせいか。そのせいで、テーマは重いが、それを感じさせない。望遠鏡のトリックは、トリビアだったが、見せ方がいかにもだったので、そこが残念。(でも、知っている人は知っているネタだから仕方ないかもしれない)ミステリより、主人公の恋の行方や謎の保育士に目が行くのはいいのか悪いのか。総合的には楽しめた。
『しゃべれども』某リストで「ハッピーエンド」作品に取り上げられた。文章はどこか落語を思わせるテンポで、いきなり時制が飛ぶのも芝居的。次から次へと色々なことが起こる。描かれるのは出来事が中心で、内面が描かれることは殆どなく、解説にある通り、描写のみで説明される。内面が描かれるのは主人公だが、それも、妙な例え話のような描写で済まされる。サブキャラの小学生に一番感情移入してしまい、主人公の恋の行方はどうでもいい。(敢えて描きこまないのだろうけれど)。なので最後のシーンは蛇足に感じるが、まぁいいか。
『灰色の巨人』「灰色の巨人」と名乗る怪盗は何なのか?大男か?と思えばサーカスは出てくるわ、乱歩ワールド全開。(よく考えるとサーカス団は話に関係ないので完全に趣味だろうし)。しかも、「灰色の巨人」は、結局のところ、神奈川県民なら大抵は知っているアレだった…!ある意味衝撃の結末。そりゃびっくりだわー。
メグレ警視』ずっと「警部」だと思ってたけど特に支障はなかった(何かと混在したと思われる)。翻訳ものを読むといつも思うことだが、訳がまずい。名訳なのかもしれないが、合わなかった。「月曜日」は……だったが、我慢して読み進めると、他のは面白い。メインは「グラン・カフェ」だろうけれど、登場人物が多すぎ、また、見分けがつかなくなって、最後混乱したのが勿体無かった。「街中の男」が一番面白かった。