11月の読了本

『シュミじゃないんだ』三浦 しをん→【bk1】
『生首に聞いてみろ』法月 綸太郎→【bk1】
『霧の訪問者』田中 芳樹→【bk1】
ギリシャ棺の秘密』エラリイ・クイーン→【bk1】
空中庭園』角田 光代→【bk1】
『太陽と毒ぐも』角田 光代→【bk1】
上高地切り裂きジャック』島田 荘司→【bk1】
イン・ザ・プール』奥田 英朗→【bk1】
『神様がくれた指』佐藤 多佳子→【bk1】
感想
『シュミ』ウィングスに連載された直木賞受賞作家によるBLエッセイ。直木賞とBLを同時に紹介していいのか…。三浦しをんは今後も活躍して欲しい作家なので、正直、直木賞受賞はあまり歓迎できないと思ったのだけれど、受賞後にこんな(失礼。褒めてます)本を出せるなら大丈夫、と勝手に安心した。内容は、BL漫画へラブレター。これに尽きる。全体に官能色は薄いけれど、ところどころにそれなりの表現はあるので苦手な人は注意されたし。ところで書き下ろしBL小説は作者が「失敗」と言うだけあって………であった。好みや嗜好とは別に、人には向き不向きがあるんだろうなぁと思った。三浦しをんがBL作家を目指さなかったのは正しかった…のか?
『生首に聞いてみろ』本格、だなぁ。今、クイーンを読んでいるので特に、本家と似ていると思った。容疑者の変装を見抜けず、むざむざと見逃してしまったエピソードは、探偵がエラリイ≒綸太郎でなければ、ありえない!と言うところだが、彼だと納得してしまうから不思議。舞台は東京都下の町田市で、周辺の地名が執拗に出てくるが、特に物語と関係がないのが気になった。ラストの叙述的仕掛けには見事に引っかかった。あれがなかったらつまらなかったと思う。ヤラレタ。
『霧の訪問者』最近舞台が海外であることが多かったけれど、やっと日本で暴れてくれました。お涼。物語は、戦隊物&水戸黄門のご都合主義を足して割らない展開だけれど、それでも楽しめるからいいのだ。ところでお涼のライバル(?)お絹さんの登場を願ったのだけれど、それがなかったのが残念。今回は二人のメイドが大活躍な上、パーティーがあって彼女たちのドレス姿も見られそう。漫画化が楽しみ。
ギリシャ棺』創元版とまぜこぜで持っているので(しかも最近そこに角川版も加わり混迷している)少々混乱するけれど、エラリイはいつものエラリイでした。富豪の前で推理を展開する必要があったのか甚だ疑問だけれど(その根拠もエラリイの自信の割には弱いと思う)、あの場面は、残りのページ数から真相でないと気付いた読者がエラリイの行動を止めるに止められず、手に汗握るシーンと解釈。ミスディレクションがてんこ盛りでおなかいっぱいになってしまうのがどうにも…。
空中庭園角田光代初読み。直木賞受賞で名前は知ったものの特に興味はなかったのだが拾ってみたら、面白い。家族(+α)のそれぞれの視点から成るオムニバス、とよくある設定だけれど、中身を読んでぶっ飛んだ。ニュータウンに暮らす一家。ラブホで仕込んだことを子に告げる両親。不倫を繰り返すだめんず父。鬱屈した弟。表向きは幸せな一家だろうけれど、中身をよく見ると「普通」と言えるような人は誰もいない。何百、何千世帯が暮らす団地。その中の幸せそうな一家それぞれにこんなドラマがあったら…嫌だなぁ。
『太陽と毒ぐも』些細な、けれど看過できない欠点を相手のうちに見つけてしまったカップルたちを描く短編集。それぞれ「風呂嫌い」「おしゃべり」「迷信好き」「酒嫌い」などなど。人に相談すると「そんなことで!?」と言われてしまうようなこと(でないのもあるけれど)。でも好き。さぁ、どうする!?小説の中の彼らは、一応答えらしきものを見つけていくのだけれど、私たちは一生この問いを抱えたまま生きていくのかもしれない、と思った。正直、アイタタタタ…と身につまされることもありやなしや。
上高地切り裂きジャック』題名に「上高地」とあるけれど舞台は横浜が多い。二編収録で後半の「山手の幽霊」は根岸線が舞台。私はここをよく利用するので興味深かった。横浜と言うとみなとみらいを連想する地方の方は多いと思うが、根岸線はトンネルが多いし駅間もかなり長い。…とはいえあのトリックはどうかと思うが…。ご当地ミステリとしては楽しめた、と思う。
イン・ザ・プール』以前ドラマをちらっと見たけれど、阿部寛ではカッコよすぎるだろう!それはともかく、精神科医伊良部は行動も正確もおかしい人でむしろお前が精神科に行け!と言いたくなるがしかし彼の言うことがいちいちもっともだったりする。患者たちは何らかの神経症を抱えているのだけれど「だから何?」という伊良部がおかしいと同時にほっとする。病名がついてしまえば病気と言うか、それを無理矢理治そうとしないのが…これはフィクションだから許されるが…いい医者に思える。最後の「いてもたっても」などは、病気が転じて福を成してしまう。病気と診断して薬を出して治そうとしてしまう医者より、伊良部の方が名医なのかもしれない…と彼を見ると相変わらずデブだし注射好きの変態だし、とてもそうは思えないんだけど、ね。
『神様がくれた指』スリの辻と占い師の薫が出会い、辻は薫の家に居候することになる。辻が追う少年少女スリ団と薫の顧客がたまたま一致してしまい…。あとは読んでのお楽しみ。面白いのだけれど、なかなか読み終わらず、もどかしさと、けれど、読了してしまうことへの寂しさを抱えたまま最後まで読んだ。天才的な指を持つ辻と、自覚はないけれど占い師として優秀な薫。こういう、天性の才能がある人物の周りにいる凡人は、心配したり、諌めたりすることしかできない。巻き込まれて迷惑を蒙ることもあるのだから、呆れて、放っておくこともできるのに、彼らの魅力に引きずられていつの間にか側にいることになってしまう。他にも魅力的な人物はたくさん登場するのだけれど(というより魅力のない人物はいないのだけれど)やっぱりこの二人に惹きつけられずにいられない。…蛇足だが作者に萌え要素があったら間違いなくBLだよなこれ…と思う。それはそれで読みたいような読みたくないような…