12月の読了本

『忌品 (TOKUMA NOVELS)』太田 忠司→【bk1】
『悪魔の寵児 (角川文庫)』横溝 正史→【bk1】
『触身仏 (新潮文庫 蓮丈那智フィールドファイル)』北森 鴻→【bk1】
『火刑法廷 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』ジョン・ディクスン・カー著/小倉 多加志訳→【bk1】
『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴 (講談社ノベルス)』島田 荘司→【bk1】
推定少女ファミ通文庫)』桜庭一樹【bk1】
鷲尾三郎名作選 (河出文庫 本格ミステリコレクション) 文珠の罠』鷲尾 三郎→【bk1】
マリア様がみてる クリスクロス (コバルト文庫)』今野 緒雪→【bk1】
『あなたに不利な証拠として (HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS) 』ローリー・リン・ドラモンド著/駒月 雅子訳→【bk1】

感想



『忌品』品物にまつわるホラー短編集。品物に関して、普段は縁起は特に気にしない。(気にしたら古本を買えない)が、これを読んでしまうとうっかり人のものを借りたり、もらったり、まして盗んだりしてはいけないような気がしてくる。人の中にそういう因子があり、何かに触発されて狂ってしまうことも、あるのだろうか…?突然、理由も分からず、何か品物に執着する気持ちが現れたら…要注意かもしれない。
『悪魔の寵児』JET版漫画の原作を追いかけるシリーズ。この作品でもJETはかなり上手に漫画化しており、はっきり言って原作を読む必要もなかったほど。望月種子や猿丸の異様さ。蝋人形のおぞましさなど、これはとても映像化向きの作品と思う(R指定は免れそうにないが…)。この作品が映像化されているかどうかは分からないけれど、JET版漫画の真骨頂の作品の一つであると思う。
『触身仏』失礼かもしれないが、北森鴻を読むとビジュアルは星野之宣になってしまう(つまり那智は忌部神奈)。また、私たちが普段何気なく受け止めている風習や言い伝えや習慣のようなものの価値観を180度…というと大げさになるが、少なくとも90度くらいは転換させてしまう。これは高田崇史QEDシリーズもそうだけれど、私たちが馴染んでいる「むかしばなし」は大抵ハッピーエンドだけれど、そこには聞けば身の毛のよだつような「裏」が隠されていることを知ってしまう。本当は知らなければよかったというのは驕りだろうか。
『火刑法廷』作家の代表作といわれるものは得てしてつまらなかったりするのだけれど、これはかなり面白かった。主人公の編集者が預かった原稿に、自分の妻とそっくりの写真が添付されており、そこには「稀代の毒殺婦」とあった。この設定だけで手に汗握っていたら本当に毒殺(かもしれない)事件が起こってしまう!妻は、本当に毒殺婦だったのか?「ポーの一族」の雰囲気を漂わせながら、最後の最後まで目が離せない展開。怪奇小説であり、秀逸なミステリ。今まで未読であったことを恥じ、もったいないと思った。こういうことがあるから読書はやめられない!
『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』クリスマスに読もう、と二年くらい積んでしまっていた。いざクリスマスに読んだものの…あまり関係なかったかも。美紀があまりにもいい子すぎて、裏を読んでしまった私はもうサンタクロースを信じられない大人になってしまった気分だった。(美紀の創作した物語も御手洗が言うほど素晴らしいと思えなかったし)全体的に、クリスマスに相応しい夢物語と思えばアリかな。そういう意味ではやはりクリスマスに読んで正解だったか。
推定少女』裏『砂糖菓子』(砂糖菓子が裏推定少女?)と言われているらしいけれど、私は特にそうは思わなかった。少女の頃に読んだらまた違った感想なのだろうけれど、あの頃確かにあった、性に分化していない、今の言葉で言うと「友情」のようなものを思い出した。最後の方のバイオハザード的銃撃戦(?)にはギモンがあるけれど、それまでの逃避行が面白かった。
鷲尾三郎名作選 文珠の罠』二部構成で第一部はミステリというより怪奇小説。ミステリと思って読むと拍子抜けするけれど、最後に何とも言えないぞっとした感触が残る短編ばかり。『鬼胎』は今でこそ人工授精は珍しくないものの、当時はどのように受け止められたのだろう?第二部は打って変わって軽快なミステリ。トリックはまぁ…アレだけれど、解説にもある通り軽妙なミステリを目指したということであれば成功していると思う。今の二時間ドラマの原点かもしれない。表題作は某新本格ミステリと同じトリックだけれど私は気付かないで読んでいた。
マリア様がみてる クリスクロス』世間がクリスマスムードの中、雑誌の世界のように、この世界はもうバレンタインデー。去年は当時のつぼみ・現薔薇様たちの隠したカードを、祐巳由乃が探し回りました。カードを見つけたら、持ち主の薔薇のつぼみとのデートがついてくるからです。…さて。今年は一段とパワーアップして、恒例(っても2回目だけど)のバレンタインイベントが行われましたが…?
今年は祐巳たち2年生3人のカードを探すイベントになりました。去年より何かと趣向は凝らされているけれど、趣向の説明が多くなりすぎてしまったのが残念。しかも結局それらがストーリーに生きていない気がするし。この巻は上下巻の「上」としてもいい内容と思うくらいの「引き」で終わっています。続きが気になって眠れない性質の人は次巻が出るまで待ちましょう。
『あなたに不利な証拠として』女性警察官、が主人公の短編集。女性警察官は「婦警」と言い換えられるけれどその言葉が含む穏やかさを考慮すると「女性警察官」の方が相応しい気がする。読了して、桐野夏生の『OUT』と似ていると思った。『OUT』は犯罪者の主婦たちが主人公の長編なので、設定や形式は正反対だけれど。元々の文章なのか、訳なのか分からないが端的で歯切れのいい文章はベタベタさがなく、かといってわざとらしいハードボイルドさもない。時々、文章の中から読者に「あなたは」と声をかけられるのもいい。今年のこのミス海外部門1位というのは、翻訳をあまり読まない私が言うのもナンだが、意外な気がする。さほど派手な展開はないし、短編はそれぞれ独立しているので、これ一つで長編になる仕掛けでもない。不思議な後味が残る短編集だった。