『静かな黄昏の国』/篠田節子

静かな黄昏の国 (角川文庫)

静かな黄昏の国 (角川文庫)

篠田節子は短編ホラーがいい。
『静かな黄昏の国』は、『夏の災厄』系のバイオホラー「リトル・マーメイド」、『カノン』系の音楽もの「陽炎」「エレジー」、SF調の「小羊」他4編の計8編の構成となっている。
「リトル・マーメイド」はバイオホラー系。『夏の災厄』や映画『アウトブレイク』などでは、ウィルスが人間の間に広がる様を描いている。これらの作品のウィルスはそれ自体に感染力があり、ひょんなことから多くの人が感染してしまう。今回の「リトル・マーメイド」で感染するのはウィルスではないが、それが人の間に瞬く間に広がる様がリアルで恐ろしい。名前を与えられていない登場人物たちがあなたの身近に、また、自分自身のようにも感じられる。
「一番抵当権」は、無責任男がそうと知らないうちに破滅させられる様が淡々と描かれる。大体は読者の予想通りだけれど、ラストとタイトルの意味が一致した時、ぞっとさせられる。(のは男性で女性はGJ!と思うかもしれないが)
表題作の「静かな黄昏の国」近未来の日本が舞台。その状況は

現在の日本は、繁栄を謳歌するアジアの国々に囲まれ、貿易赤字財政赤字と、膨大な数の老人を抱え、さまざまな化学物質に汚染されてもはや草木も生えなくなった老小国なのである

と描写される。SFによくある設定だけれど、ここで登場するのは老夫婦。彼らは老後を「リゾートピア・ムツ」で過ごすべく、向かっている。これは、今は失われた本物の森の中で、高価であるはずの本物の野菜や魚を食べて暮らせる施設。そこに破格の金額で行けるという営業マンの言葉を信じたのだ。着いてみるとバーチャルリアリティーではない本物の森。そしてビュッフェ形式の食事には野菜や魚が豊富に揃えられていた。これは夢か?それともここは天国か?と思ったが…。
この森には当然、あるからくりがあった。他の住人との交流の中でそれを知っていった老女さやか。ある者は運命を受け入れ、ある者は立ち向かう。日に日に衰えていく体でさやかが選択した未来とは。是非、自分の目で確かめてください。そしてあなたなら、どんな選択をするでしょうか?