12月の読了本

半眼訥訥 (文春文庫)高村薫
/新聞などに書いた文章をまとめた本。単行本化を想定していなかったとのことで、かなり牽強付会も目立つ。内容は「団塊世代がいかにも言いそうなこと」。この作者にしては意外だった。
にぎやかな眠り (創元推理文庫)』高田 恵子, シャーロット・マクラウド
/クリスマスイルミネーションに絡んだミステリ。時期は合っているけれど、主人公とその周りの人々の悪意っぷりは心が暖かくなるどころじゃなく、読後感はあまりよくなかった。
方舟は冬の国へ (カッパノベルス)』西澤 保彦
/和人は求職中。そんな中、破格の仕事に誘われる。それは、他人のふりをして、別荘で1ヶ月を過ごすというもの。目的は一体?中盤までは「麦酒の家の冒険」形式の謎解きが繰り返される。ここも面白いが、最後に明かされる真実は切ない。荒唐無稽な設定と言えばそうだけれど、不思議とそれは気にならない。夏は必ず終りが来る。それは切ないけれど、でも必ず来年もまた夏は来る。作者曰くBGMはサザンの『夏をあきらめて』。読了後に脳内で鳴らしましょう。
愚か者死すべし』原 リョウ
/沢崎シリーズ待望の続刊。警察署の駐車場で射殺されかかった男はある殺人の容疑者だが、それは身代わりの自首だった。容疑者を護送していた警察官に弾が当たり、死亡する。この事件と奇妙な富豪の事件が絡み合って、沢崎は翻弄される。過去の作品で関わった人物が何名か登場し、記憶を掘り返すのに時間がかかった。事件は二転三転し、最後まで予想できなかった。
笑酔亭梅寿謎解噺 1 ハナシがちがう! (集英社文庫)』田中 啓文
/不良の竜二が笑酔亭梅寿の元に無理矢理弟子入りさせられる。そこで起こる様々な事件を落語に絡めて解決するうちに竜二が成長していく物語。竜二は不良の割には(失礼)いい子だし、頭もいい。他にもツッコミどころは色々あれど、そこは落語も一緒。肩の力を抜いて物語を楽しみましょう。笑いどころあり、ほろりとするところあり、はまさに落語そのもの。上方落語の解説もあって、落語通でも楽しめるのでは。…ところで野暮を承知で一つ細かいことを。上方落語につきものの「見台」を、表紙絵に入れて欲しかったなぁ。
夜は短し歩けよ乙女』森見 登美彦
/私は大学生。今日も麗しの黒髪の乙女を追いかけている。…だんだんストーカーになってきたがそれは言わないオヤクソク。京都を舞台に、乙女と学生の私は酒を飲み、古本を漁り、学園祭で大活躍をする。遊びすぎたツケか最後には風邪をひく。どことなく和風の雰囲気は、『しゃばけ』シリーズに通じるものがある。次から次へと不可思議な人(?)が登場するけれど、彼らは人間なのか?幻なのか?…でもそんなことどうでもいい。色々あるけれど、読後はとても爽やか。
シロツメクサ、アカツメクサ (光文社文庫)』森 奈津子
/相変わらず変態な(褒めてます)森奈津子ワールド。変態だけど切ない。閉じられた濃厚な関係が破綻したり、再生したりする物語。真実はどうでもいい。ただ、あなたと私の関係は咽るほど濃くて、そして羨ましい。
残虐記 (新潮文庫)』桐野 夏生
/小学生の時、1年ほど「ケンジ」に誘拐された少女が、大人になって小説家になる。誘拐のことは一切語らなかったが、事件を小説に仕立てた原稿を残して失踪する。入れ子構造の物語。「ケンジ」は何者だったのか?少女は想像を膨らませ、いつか、想像の中に生きる。ケンジも少女も真実は何も語らなかったのに、事件は自分たちの手を離れて勝手に物語を紡いでしまう。裁判で、世間の、近所の人々の中で。センセーショナルな事件が起きた時、TVのコメンテーターだけでなく、私たちも勝手に物語を紡いでしまう。それの何と残酷なことか。
リピート』乾 くるみ
/現在の記憶を持ったまま、10ヶ月前の自分に戻れる。そんな僥倖を手にした10人だが、一人は事故死、一人は自殺、一人は殺されていく。これは『そして誰もいなくなった』なのか?リピート(10ヶ月前に戻ること)と、それとは別の悩みに翻弄される主人公。「どーすんの?どーすんのよオレ?」とカードでも選びたくなる。主人公が選んだカードは何か?…そもそも、用意されていたカードは何か?最後の最後まで気を抜かないで。
翡翠の家 (創元推理文庫)』ジャニータ・シェリダン
/夢を抱えてハワイからニューヨークに出てきたジャニスは、部屋探しに明け暮れている。そんな折、運良くハウスシェアの相手が見つかる。喜んで出かけたらその相手はハワイで面識のあるリリーだった。彼女と、なにやら曰くありげな部屋に引っ越すが、越して早々、事件に巻き込まれる。謎めいた住人たちと、そして、リリー。リリーのキャラクターが怪しい&妖しいでとても魅力的。事件はリリーを探偵役、ジャニスがワトソンで進んでいくけれどこのワトソンは本物以上に役に立ちません。
二人道成寺 (文春文庫)』近藤 史恵
/歌舞伎ミステリーシリーズ。歌舞伎にも梨園にも詳しくない私だけれど、それなりに楽しめた。梨園の若手スターの自宅が火事になり、妻が意識不明の重体。この火事に不審な点があると調査を依頼したのは若手スターのライバル。この二人の確執は?妻との関係は?芸の世界は世間とは違う常識で動いている。その中で翻弄される男女だけれど、最優先はいつも芸。人の気持ちは二の次とはいえ、役者も人の子。そのように徹底できないこともある。そんなすれ違いが生んだ悲劇は悲しいけれど、それを経た二人の役者による二人道成寺(私は知らなかったが、道成寺を二人で演じるという演目が歌舞伎にはあるらしい)はどれほど素晴らしいかと思った。
マリア様がみてる 30 キラキラまわる (コバルト文庫)』今野 緒雪
/薔薇三姉妹+αで遊園地編。それぞれの姉妹にそれなりのエピソードがあり、どのファンでも楽しめる。個人的には、令さまの男らしさに感動した祐麒がツボだった。こういう、総集編的な物語が来るとそろそろ最終回なのかなぁと思います。
オリガ・モリソヴナの反語法米原 万里
/子どもの頃、ロシアで過ごした志摩。ダンサーの夢破れて思い出すのはダンサーを目指したきっかけとなったオリガ・モリソヴナ先生のことだった。思い出せば謎の多い先生だった。その謎を追いながら、懐かしい同級生や歴史の生き証人と再会していくうちにロシアの歴史を知ることとなる。ロシア名前と時制が移動するので読みづらいけれど、フィクションの形式を取ったノンフィクションに圧倒される。一番驚いたのは、列車で移動するのにロクに暖房がなく、場合によっては着いた途端に死体が転がってきたこと。「自分がそうならなかったのは運良く極寒の日がなかったから」と生き残りの人は語る。平和ニッポンにいると、思想犯で投獄ということ自体信じがたい。その人本人のみならず、妻や子まで離れ離れにするのは何故か…?思うのは、卑近なたとえで恐縮だが、暖房で暖めた屋内の中に大勢の人々がいる。けれど、一人が窓を開けたり、燃料の補給を怠れば、すぐに人々は凍えて死んでしまう。だから、それらの行動を取ると疑わしき人は、罰するんじゃないか。寒いことは悲しい。
赤朽葉家の伝説』桜庭 一樹
/赤朽葉家三代の女性の物語。語り手は三代目の「瞳子」。横溝的な旧家の赤朽葉家は時代の波に乗りながら、溺れたり、沈没したりすることなくゆっくりと航海を続けている。祖母の万葉の時代。戦争があり、オイルショックがあった。母の毛鞠の時代。売れっ子漫画家として突っ走ってそのまま死んだ母。そして三代目には何もない。「語るべき物語がない」と語る瞳子の物語は私の下の世代が読むことになるんだろうと思った。
六死人 (創元推理文庫 (212‐2))』三輪 秀彦, S=A・ステーマン
/『リピート』に題名だけ登場した作品。6人の青年は5年後に再会すると誓う。その時、大金持ちでもド貧乏でもお互いの財産を分け合うと約束した。早速再会した二人の下に、仲間の一人が事故死した知らせが届く。続いて現れた仲間も狙撃され、消えてしまう。「そして誰も」より8年早いこの小説。犯人は一体誰?短くてシンプルで、でもそう簡単には見破らせてくれない。「あれかな?」「あれだろう」「あれ?てことは?」「あれあれ??」と考えているうちに犯人が自滅。短い割にはフランス風なのか、微妙に余分な記述もあるけれど、そこはミスディレクションの一つとして目をつぶりましょう。今気付いたけれどこの女性の使い方は横溝に通じるものがあるかもしれない。