ここんとこの読了本

あー。キーボードが認識しなくて焦った。

僧正の積木唄 (文春文庫)山田正紀
/ダインの『僧正殺人事件 (創元推理文庫)』は読んでません。けどそれは関係なく、楽しめました。舞台はアメリカで登場人物の半分くらいが外国人だけど、翻訳苦手な人でも大丈夫だと思います。舞台は第二次世界大戦前。かつてアメリカを震撼させた『僧正殺人事件』の関係者が爆死した。あの悲劇が再び繰り返されるのか?…というところから始まって、金田一耕助が登場。例によって遠回りしつつも、金田一と一緒に事件を追いかけて行くと、そこには意外な犯人が。ダインは私は分からないんだけど、金田一への愛に溢れてて読みながらニヤニヤしてしまうことしきり。もちろんそれだけじゃなくて、物語もすごく面白いし、読み終えて、妙にグローバルなことを考えてしまうのは、作者がSFの方だからでしょうか。

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)恩田陸
/「夏の名残」とタイトルにはあるけれど、舞台は晩秋から初冬。ついでに夏の名残の薔薇というと、六条の御息所*1の「庭の薔薇が散り遅れて見苦しい」を思い出したんだけど、それとも関係なくて、ある詩からの引用らしいです。とまぁ個人的な勘違いはこのくらいにしておいて。
舞台は山奥の洋館。そこに年に一度集まる人々。ホストは老三姉妹(私は犬神家の松竹梅姉妹をイメージした)。不思議な魅力のある桜子とその弟。そしてイレギュラーに現れた桜子の夫。ポワロを思わせる謎の老人とか、女優とそのマネージャーとか、舞台の登場人物は整った。さて、何が起こるのか?
…ネタバレになるかもしれないけど、何か起こると言えば起こるし、起こらないと言えば起こらない。ミステリの、美味しいところ詰め合わせ、みたいな?曖昧なことしか言えないけど、山奥の洋館と謎のホストとゲスト、その舞台に心惹かれたら読むべし。

おやすみ、こわい夢を見ないように (新潮文庫)角田光代
/短編集。どの話も、冒頭20%くらいは「引き」があるんだけど、最後に特にそれらしいオチがないのが共通点かもしれない。なんだそりゃ?と思うかもだけど、その答えかもしれないものを引用してみる。

今いる場所を好きになれず、かといって、あらたな足場を捜すこともできない。許したくて、受け入れたくて、先へ進みたくて、それがかなわないのなら、拒絶したくて、無視したくて、断ち切って終わりにしたい。しかしそのどれもできない。いつかそのどれかを選び取ることができるのか、それともその全部を自分は抱えていくのだろうか

許すこと、受け入れることと拒絶すること、無視することの両方を抱えることは、矛盾する。選び取ることは難しい。抱えることもまた、難しい。自分で選べることなんて、そんなになくて、だいたい勝手に決まってしまうもの。何か望みがあってもそれに向かって行動しない人に対してその望みは本気ではないと糾弾したりされたりすることがしばしばあるけれど、本当にそうか?選ばないことを選んでいるのかもしれない、という気がする。

クラリネット症候群 (徳間文庫)乾くるみ
/『マリオネット症候群 (徳間デュアル文庫)』は既読なのにきれいさっぱり忘れてました。「マリオ」は里美(女子高生)の体の中に男子高生が入ってしまうお話。なんだありふれた、と思うかもだけど、このパターンの場合、一人称は男子高生の場合が多いのに対し、ここでは乗り移られた(?)女子高生が主人公。それだけじゃなくて、次から次へと驚愕の事実が判明する。そして大団円?「皆が幸せ(?)ならそれでいいか!」が結論(多分)。
「クラリ」は暗号もの。…けどこれも「マリオ」の姉妹編(両者に関連はない)だけあって、一筋縄ではいかない。どちらの作品にもいわゆる「まとも」な登場人物など誰もいないんじゃないか?次はなんだろう?「カスタネット症候群?」楽器でかぶっちゃうかなぁ。でも「洗濯ネット症候群」はちょっとなぁ。あ!!名案!「ブルネット症候群」これでどうだ!(どうだ、言われても)

大誘拐 (角川文庫)天藤真
/名作と言われて久しいこの作品。やっと初めて読みました。ていうか初天藤真。映画は見たことないんだけど、井狩刑事が緒形拳か。かっこいい。刀自はなんとなく初井言栄をイメージしてたんだけど、調べたら映画の前年にお亡くなりになっていましたね。
誘拐のを普通じゃなくしているのはまぎれもなく刀自。ただものじゃないこの人。誘拐まで仕組んだんじゃないかと思わせるくらい。ご都合主義なところももちろんあるし、結構長いんだけど、そういうことが気にならないです。映画を見たような気がする長編でした。

有栖川有栖の鉄道ミステリー旅有栖川有栖
/本屋で衝動買い。K川書店あたりなら買わなかったけど天下の山渓で、江ノ電の写真があんなにあったら買わないわけにはいかない。
中身は作者が雑誌に連載したものの再録。タイトルに「鉄道」とあり、作者自身もそれなりにテツなんだけど、本物のテツには物足りないかもしれない。ちなみに作者は「乗り鉄」。個人的には山田線のエピソード(失礼な!)と、もちろん、江ノ電と、作者オススメの鉄道ミステリリスト(この鉄ミスがすごい!)がよかった。積読本の中にオススメ本があるに違いないと捜したら…(↓へ続く)

準急ながら 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)鮎川哲也
/がありました。哲也のテツは鉄道のテツの異名を持つ(?)鮎テツの作品。古い作品らしく新幹線が「超特急」と呼ばれていたりするのが逆に面白い(こだまとひかりしかないし)。メインは時刻表トリックで、登場人物もそれを知っているかのように、アリバイを聞かれた時に嬉々としてぺらぺらと喋りだすところは、お約束のギャクを見ているようでいとおかし。その後、鬼貫警部がそれを解き明かすんだけど、TVと違って「それなら早速現地に行ってみますよ」と無駄に観光案内されることもないので安心して読むべし。トリックそのものは…まぁ、いいんだけど。期間限定の準急「ながら」を使うのも鮎川テツ也たるゆえんか。

最長片道切符の旅宮脇俊三
/テツものを続けよう。そんなにお前はテツなのか、と言われると困る。私はせいぜいロマンスカーの車窓を眺めながらビールを飲んだり、新型ロマンスカーMSEに乗ってみたり、副都心線に乗ってみたり、江ノ島に行くのに藤沢で乗り換えて大船に出て湘南モノレールに乗ったり、立川に行くのに多摩モノレールを使ってみたり、海老名から座間を相模線で移動したりするのが好きなだけのことだ。*2
で、最長片道切符の旅だけれど、名作らしいが実はそんなに知らなかった。実は「最長片道切符」の意味も読み進めてしばらくするまで分からなかった。そんな感じで何となく読み進めた。作者は時間とお金を費やして一筆書きの旅をするんだけど、文章から、そこまでの熱意を感じないのがむしろ面白い。地方論や政治論を展開することもない。だからこそ、これが名作として読み継がれる所以なんだと思う。

*1:関係ないけど六条の御息所ってすごい年増みたいに描写されるけどよく考えるとまだ20代なんだよね…。20代で女の盛りは終りってああた。

*2:ところでさ。全然関係ないんだけど、小さい頃乗った電車で、多分ボックスシートだったと思うんだけど、窓の下のところに灰皿があったんだよねぇ。あれってどこで見たんだろう?中央本線かな…?