『下り「はつかり」―鉄道ミステリー傑作選 (光文社文庫)』鮎川哲也編

/「鉄道ミステリー」と聞くと西村京太郎に代表される時刻表アリバイものを想像するが、このアンソロジーに収録されている作品はもっと懐が広い。作中に「鉄道」が使われればいいんじゃないか、という気さえするし、そもそも事件と解決を伴うミステリーですらないものもある。その代表作は冒頭の『ジャマイカ氏の実験』(城昌幸)と『押絵と旅する男』(江戸川乱歩)だろう。特に後者は再読何度目か分からないが読むたびに素敵だと思う。小説の読み方として、語り手を疑うやり方があるが、それをすると、まさにこの物語はどこからがゆめでどこからがまことなのか、分からなくなってくる。『下り終電車』(坪田宏)の皮肉なラストも秀逸。星新一の『泥棒と超特急』も見事なショートショート。永く読まれ継がれている作品はやっぱり素晴らしいものだと実感しました。