『夜聖の少年 (徳間デュアル文庫)』浅暮三文

/この世界で「大人になる」と、体が発光を始める。その頃に抑制遺伝子を移植され、反社会的行動を取れないようにされる。それを拒否した者たちは地下で「土竜」と呼ばれ、排除の対象となる。そんな土竜の一人、カオルが主人公。弱かった彼が闘いで仲間を失い、また別の者たちと協力しながら大人の世界(物語では「光」が強調される世界)と自らの出生の秘密を暴いていく物語。
これは単純に子どもが大人の世界を否定する物語では、多分ない。そういう風に読むこともできるだろうけれど。光の世界は不自然なほどに闇を排除した世界であり、光と闇の融合を目指す…という物語でも、多分ない。そういう側面もあるだろうし、途中まではその読み方でいいんだろうけど。最後の一文で、どんでん返しとも違う、別のオチが用意されていたことに気付く。私は映画『ザ・フライ』のラストを思い出して「これはホラーだったのか?」と思ったほどだ。今後、地下世界でカオルの子孫たちが増えていったら…。それはそれでこの世界を変革することになるのだけれど、それはこの世界に何をもたらすのか。答えは、この本の中には、ない。