ここんとこの読了本

百瀬、こっちを向いて。中田永一
百瀬は前にアンソロで読んでいたので再読。よくよーく考えると、普通な恋愛小説かもしれないけれど「僕」視点で語ることで生じるちょっとした叙述的仕掛けと、僕の設定が作者らしい。レベル2、とかの部分はきっと楽しんで書いてるんだろうなぁと思う。「なみうちぎわ」のトリック(つうほどのことでもない)には早くから気付いたけど、そこから導かれるオチには驚いた。この作品全体がそうだけど、恋愛小説といっても燃え上がるようなものじゃなくて、淡々とした独特の感情の表現があって、それがとってもよかった。「キャベツ」はさらっとオチを書いてるので慌てて読み返した。主人公の女子高生は、失恋したように書かれているけど、でも結果はまだわからないし、冒頭の記述を見ると、失恋ってわけでもないのかも。屋上手前の一人の空間っていいな。学生特有だろうか。誰にもそういう場所があったかもしれないし、なかったかもしれない。最後の「小梅」は表題作と対照的な設定。設定と展開とオチは、一昔前の少女漫画的でありきたりだけど、キャラクター設定が面白かった。どの小説も一人称なので、主人公から見えていない別の事実があるんじゃないかと勘ぐって読むこともできる。「小梅」の場合、山本くんは実は気付いていて、気付かないふりをしているのかも、という見方もできるけど…。でも山本くんが底なしのバカという方が面白いからいいや。あと、小梅が化粧をするか、しないかっていうのは、かなり重要なことなんだけど、しないことの動機に「面倒」というのがあって、それは小説的にはおかしいかもしれないけど、逆にリアルな感じがした。
江戸川乱歩賞全集(4)大いなる幻影 華やかな死体 (講談社文庫)戸川昌子
私が読んだのは古い講談社文庫版で、「幻影」しか読んでません。
個人的読書テーマ「乱歩賞」第一弾(第二弾までしかない)。
女性専用の古いアパートで起こる様々な事件。過去の事件も交えて、住人たちの過去が複数の視点で語られる。ミステリというよりは幻想小説のような趣の作品でした。読んでいて、連城の『暗色コメディ』を思い出したけどこちらのほうが先ですね。最後に全ての謎に解決は示すけれども、それはもうどうでもよくなっていて、気が付くと、自分もこのアパートの住人の一人になったような気がする。そして、冒頭と最後に登場するアパートがそっくりそのまま移設するシーンは、自分が今立っている場所が揺らいでいるような不思議な感覚になる。実際そういうことが可能か不可能かわからないし、移設じゃなくても他に書き方はあったと思うけどこの演出はすごいと思った。解説は赤江瀑で、作者の他の作品も是非読んでみたいと思わせるものでした。
ディオゲネスは午前三時に笑う (1977年) (講談社文庫)』小峰元
昭和52年なのかこの作品。乱歩賞第二弾、と言ってもこの作品で受賞したんじゃなくて、『アルキメデスは手を汚さない』で受賞。これは5作目だけど続き物というわけじゃないのですね。
プロローグで、軽いノリで書かれているけれどもある意味衝撃的な心中のシーンが描かれる。物語はそこから40日遡ったところから始まる。何故40日か?それは主人公は高校生で夏休み中の出来事だから。
「青春推理小説」の名のとおり当時の若者の風俗が、かなり意識的に挿入されている。そういう意味で時代色はあるんだろうけど、物語の本筋には無関係と言ってもいいかも。プロローグに示された心中事件が、物語とどう絡むのか最後まで分からなかったし、よく考えるとちょっと強引なんだけど、この構成のお陰で最後まではらはらしながらよめた気がする。
死の蔵書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 ジョンダニング
1997年のこのミス海外版1位の作品。ちなみにこの年の国内版の1位は『不夜城』。
セドリ(とは訳されていない。本編では「掘り出し屋」)ボビーが殺された。刑事でありながら古書マニアのクリフがその事件を追う。
古書のくだりや古書店(また訳の話になるけど本編では単に「書店」としか書かれてないけど古書店のことと思われる。向こうでは新刊書店と古書店の区別がないのか?そんなわけない気がするが)の個性的な人々のくだりは面白かった。キングの評価が異常に低いのは作者の本心か設定か?それはいいとして、古書マニアとしてのクリフと刑事としての彼の姿にとてもギャップがあった。宿敵との対決や、謎の美女との展開も安っぽい映画を見ているようで、このくだりいらなくね?という気も。そして、日本人が読むとちょっと引っかかってしまう表現が二箇所ほどあった。一つは仕方ないけれど、もう一つは別の訳に置き換えてもよかったのでは。
ナイルに死す (1965年) (新潮文庫)アガサ・クリスティ
新潮文庫版で読みました。クリスティを新潮版で読むのは初めてかもしれない。いつもは早川か創元。そのせいかちょっと趣が違うような気がしました。クリスティマイブームです。といっても今回で終わり。
富豪の美女リンネットが殺された!容疑者はいるものの鉄壁のアリバイがある。さてポワロは?
意外に事件が起こるまでの間に色々なことがあります。最初は、金持ちだけどどことなく満たされないリンネット。そこへ、貧乏だけど幸福な友人ジャクリーンが現れます。彼女には素敵な婚約者がいたからです。リンネットは羨ましがるのですが、次の場面では、ジャクリーンの素敵な婚約者はリンネットの婚約者となっており、ジャクリーンは復讐に燃えて彼らにつきまというという関係になってます。あらららら。これでは事件が起こらないはずがない。舞台には彼らのほかにも様々にいわくありげな人々が登場し、ポワロを悩ませます。
事件そのものより、周りの人々の描写とどたばたの方が面白いかもしれません。物語は船の上で起こるので、舞台向きだと思います。最後のシーンも見ごたえがありそう。
晩餐会の13人 (1975年) (創元推理文庫)』アガサ・クリスチィ
大女優ジェーンの夫エッジウエア卿が殺された。容疑者は妻のジェーン。何故なら彼女は日頃から「夫を殺したい」と言っていた。しかし彼女にはその頃パーティーに出ていたというアリバイがある。ジェーンのものまねが上手なタレント、カーロッタが事件に絡んでいると思われるものの、ポワロが着く前に彼女は死んでいた。さて本当の黒幕は?
犯人の目星は早いうちからついてしまう。ミステリを多く読み慣れたせいだろうか?
私が個人的につけてるジャンルに「ファム・ファタルもの」というのがある。横溝の作品の多くはそれだし、他にも作例は沢山あると思う。要するに、印象的な女が登場して、終始、その女のために物語が進むというもの。先に読んだ『殺人は癖になる』もそうだった。これもそうだった。他には、マダム・タッソーとかがそうかな?